視神経脊髄炎(NMOSD)の情報を提供し、患者さんと家族の
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提供:中外製薬株式会社
最終更新日2024/12/11
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD:Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders)の症状の1つ、排泄障害。
デリケートなことではあるけれど、快適な生活を送るために、避けては通れない問題でもあります。
困っているけど相談しにくかったりするトイレのこと。
当事者にしか分からないトイレの問題や日常生活での工夫、治療法やケア方法について、
NMOSD患者さんと、NMOSDを専門とする医師に聞きました。
ステーションコンファレンス東京 402 2024年6月22日(土) 12:30~14:30
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あゆみさん(40代女性)の場合
2023年に初めての再発を経験。神経疼痛のほか、歩行障害、排泄障害などさまざまな症状を抱えながらも、病気と治療、自分の生活と向き合っている。
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しょうこさん(50代女性)の場合
これまでに小さいものも含めて3回の再発を経験。脳、脳幹、頸椎、脊髄に炎症が起きたが、現在は杖で歩行。仕事や生活をマイペースに楽しむよう心がけている。
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たかふみさん(40代男性)の場合
発症から4年後に非典型の視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica: NMO)と診断される。診断の2年後から車いすユーザーに。現在はテレワークもしつつフルタイム勤務中。
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あゆみさんの場合
排泄障害はとても困っている症状の1つです。
発症時よりも少しずつ良くなっていますが、今も尿意・便意を感じてすぐにトイレに行かなければ間に合わなくて、おねしょをしてしまったり、車のシートを濡らしてしまったりすることも。周囲には気づかれなくても、やっぱり自己嫌悪に陥ります。 -
しょうこさんの場合
発症当初は排尿の間隔が30分に1回で、トイレに行きたいと思った瞬間にはもう出てしまう状態だったため、おむつが必要でした。
排尿障害の薬を飲むようになって間隔は2時間に1回ほどになりましたが、薬を飲み忘れると短くなることもあります。
また、便秘とおならにも悩まされました。便秘に関しては、お通じが数日ない時は便秘薬を飲んで対応していますが、お尻の感覚が鈍くなっているので、おならは対処が難しいですね。外出をするのが嫌になった時期もありました。 -
たかふみさんの場合
発症から10年を過ぎた頃から頻尿になりました。
就寝中や仕事中など、日常生活にはかなり支障が出ました。どうしても必要な時はおむつを利用することもあります。おむつの使用には抵抗感がありましたが、今は「他に選択肢がないのだから仕方がない」と、割り切っています。
また、便秘もあるので、便を柔らかくする薬を処方してもらいました。柔らかくなりすぎると便漏れが心配なので、服用量を調整しながら使っています。
他の症状については相談できるけれど、排泄障害のことは話しづらい・・・・・・
そう感じている人も多いのではないでしょうか。
NMOSDの排泄障害について、先生にお話を聞きました。
患者さん
あゆみさん
しょうこさん
たかふみさん
医師
清水 優子 先生
東京女子医科大学 医療安全科・脳神経内科兼務 教授
王子 聡 先生
埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科 准教授
NMOSDではなぜ排泄障害が起きるのでしょうか?
排尿は脊髄の一番下の部位である、仙髄にある排尿中枢でコントロールされています。この排尿中枢と脳との間では、「膀胱で尿がたまってきた」「尿はまだ出さない」といった情報のやり取りが行われています。また、排便に関しても同様に、仙髄にある排便中枢が関与しています。しかし、 NMOSDのように脊髄に病変があると、「排泄してもよい」「まだ排泄はしない」といった指令を送ったりする神経伝達がうまく働かず、排泄のコントロールが難しくなり、排泄障害が起きてしまいます。
排泄障害の症状について教えてください。
排尿障害には、尿をためられない蓄尿症状と、尿をうまく出せない排尿症状の2つがあります(表)1)。排便障害には、便が出ない便秘と、便を漏らしてしまう便失禁の症状があります。
一言で「排泄障害」と言っても、出ない症状なのか出てしまう症状なのかによって治療方法は変わります。ですから、適切な治療を受けるために、ご自分の症状を正しく伝えることが重要です。また、副腎皮質ステロイド薬の長期服用により、尿路結石ができることもあります2)。尿路結石ができると頻尿や残尿感など感染症の原因にもなり得るので、心配な場合は副腎皮質ステロイド薬を減量できるかなど、主治医に相談してみてもよいと思います。
排尿障害に対する治療法・対処法を教えてください。
排尿障害の治療は薬物療法が基本になります。
お薬以外の対処法としては、失禁用の下着や尿とりパッド、排泄のコントロールに重要な骨盤底筋体操、排尿時に下腹部を手で圧迫する排尿時手圧迫、飲水量を調節するといった方法もあります。
患者さんTALK:あゆみさんから尿とりパッドの話があり、
しょうこさんからは、排尿時におなかを押すという方法や、たかふみさんからは間欠的自己導尿の話が。
排便障害に対する治療法・対処法を教えてください。
患者さんこぼれ話:しょうこさん、たかふみさんから
「緩下剤を使うと便が柔らかくなりすぎて、便漏れが心配」という声が。今はお二人ともご自身で服用量の加減が分かるようになり、うまく緩下剤と付き合っているそう。
排泄障害に関連して、注意すべきことはありますか?
排泄障害だけで再発の徴候になることはまれですが、下肢の脱力やしびれなど、他の神経症状を伴う場合は再発の可能性がありますので、主治医に相談してください。
また、尿路感染症にも注意が必要です。排尿症状として膀胱内に尿が残ることで、膀胱炎にかかりやすくなります。膀胱炎では血尿、尿が濁る、排尿時痛、頻尿、残尿感などの症状が出ます。細菌が膀胱から腎臓へ進入すると腎盂腎炎を起こし、腎盂腎炎が悪化すると細菌が血液中に移行して敗血症という命に関わる状態に陥る危険もあります。発熱がある場合は腎盂腎炎が疑われるため、速やかに受診してください。頻尿や乏尿(1日の尿量が400mL以下)、残尿感など以前よりもひどくなって目立つ場合は、感染の可能性もあるため、早めに主治医に相談しましょう。
1) Abrams P, et al.: Neurourol Urodyn. 2002; 21(2): 167-178.
2) 日本泌尿器科学会 日本尿路結石症学会 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会. 尿路結石症診療ガイドライン第3版.
医学図書出版株式会社. 2023, p200.
3) 日本神経学会監修.「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会.
多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023. 医学書院. 2023, p250-251.
患者さんと医師の座談会から聞こえてきた、排泄障害への対処法、
ヒントや本音について、また患者さんと医師から読者の皆様へのメッセージをご紹介します。
さまざまなアイテムをうまく利用して、
少しでも負担を軽く
・吸水量が170ccの薄めタイプの尿とりパッドを愛用。「羽つき」タイプを使用すれば、ずれや横漏れ防止になる。
・不衛生にならないようデリケートゾーン用のウェットシートを使う。
・就寝中に失禁した後、シーツを洗うのは大変。疲れている時は、ベッドにペット用の吸水シート、その上にタオルケットを敷いて対策。
紙おむつや尿とりパッドの助成制度がある。
社会資源の活用も検討を
・障害者や難病患者さんを対象に、紙おむつや尿とりパッドの購入費用の助成制度を設けている自治体もある。紙おむつ・尿とりパッドも毎日使うと費用もかさむので、対象となる場合は遠慮なく利用してほしい。
・助成金額や給付対象、申請にかかる手間などは自治体間で差がある。中には紙おむつが現物支給のところも。まずは、住んでいる地域に制度があるのかどうか確認してみてもいいかも。
外出先で慌てないために、
トイレの場所は事前にリサーチ
・友人と外食する時は、お酒も楽しみたいし、いつもよりも多く水分をとってしまうかも。だから、友人と一緒に行くなら、トイレに近い席をお店の予約時にお願いする。
・コンビニエンスストアにトイレはあるが車いすだと入れないことも。多機能トイレが見当たらないこともあるが、駅には設置されていることが多い。
突然の尿意にパニックにならず、
落ち着いて行動を
・急にトイレに行きたくなったら、その場で止まって、尿意のピークが去るのを待ってから動くようにする。
・「もう駄目」という状態でも、我慢していると尿意が緩和する時がくるので、そのタイミングでトイレに行く。 パニックになってトイレをめがけて走り出さないようにしている。
もっと気軽に相談できるように、
こんなアイディアも
・症状のことを異性の医師に話しづらい場合は、同性の看護師さんに話をしてもらっても大丈夫。何に困っているのか教えてほしい。話を聞けると専門医、専門の診療科につなぐことができる。
・症状が恥ずかしくて言いづらい方は、病院で配布されているコミュニ ケーション冊子を活用してみてほしい。診察時や周りの人に症状を伝える時に、この冊子を見せて相手に読んでもらうだけで困っていることが伝わるので、是非使ってみよう。
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清水先生排泄障害の治療は症状によって選択肢が異なります。ご自分の症状を正確に医師に伝えるために、尿量の変化、排尿時間、残尿感、排尿回数、尿意切迫感や排尿時痛の有無などを具体的にメモしておきましょう。そして、最も困っているのはどの症状なのかも伝えてください。排泄障害は診察所見だけでは分かりません。医師から何も聞かれない場合は勇気を出して、ご自分のために是非話していただきたいと思います。
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あゆみさん排泄障害に限らず、自分で言いづらいことは家族や友人から伝えてもらう方法もあると思います。また、外出する時は一緒に行動する人とトイレの問題があることを共有しておくことをお勧めします。「恥ずかしくて誰にも話せない」と思い込まず、頼れるところは周囲に頼って快適な生活を送っていければいいですね。
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たかふみさん排泄の問題を他の人と話す機会はほとんどなく、インターネットやSNSで公開されているNMOSD患者さんの日記などから情報収集しています。話しづらい話題ではありますが、患者会などさまざまなコミュニティーで積極的に話し合い、「こんなことに困っているんだ」と患者側から発信していければと思います。
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しょうこさん排泄障害に関しては、脳神経内科だけでなく泌尿器科や消化器内科の先生にも相談するなど、発症から3年ほどは、じたばたしましたが、今は薬の服用と記録をつけることでうまくいっています。自分らしく行動するには、排泄のコントロールはとても大切です。主治医に相談しづらい時は、看護師さんに聞いてもらってもいいと思います。適切な治療やケアで、友達との外食も楽しめるようになると思います。
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王子先生排泄障害は生活の質に大きく関わることであり、NMOSDを治療する上でも大切な情報です。一方で、NMOSDには女性の患者さんが多く、「男性の医師には話しづらい」と感じている方もいらっしゃると思います。その場合は、同性の看護師に伝えるのも1つの方法です。診察時には医師と患者だけでなく、看護師などの医療スタッフも交えて話ができる体制づくりが必要なのではないかと思っています。