最終更新日2024/12/26

CROSS TALK~患者さんと医師による座談会~痛み・しびれについて CROSS TALK~患者さんと医師による座談会~痛み・しびれについて

さまざまな症状が発現する、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD: Neuromyelitis
Optica Spectrum Disorders)という病気。
中でも、「痛み・しびれ」に悩まされている患者さんは多く、日常生活に支障をきたすこともあります。
また、外見からはわかりにくい症状のため、周囲の理解を得られないことも……
痛みやしびれとどう付き合っていけばいいのか、どのような治療法や対処法があるのか、NMOSD患者さんと、NMOSDを専門とする医師に聞きました。

ステーションコンファレンス東京 402  2024年6月22日(土) 12:30~14:30

全ての患者さんが、こちらでご紹介している患者さんと同じような経過を示すわけではありません。患者さんTALK「排泄障害 私の場合」 全ての患者さんが、こちらでご紹介している患者さんと同じような経過を示すわけではありません。患者さんTALK「排泄障害 私の場合」

  • あゆみさん(40代女性)の場合

    2023年に初めての再発を経験。神経疼痛のほか、歩行障害などさまざまな症状を抱えながらも、病気と治療、自分の生活と向き合っている。

    あゆみさんイラストイメージ
  • しょうこさん(50代女性)の場合

    これまでに小さいものも含めて3回の再発を経験。脳、脳幹、頸椎、脊髄に炎症が起きたが、現在は杖で歩行。仕事や生活をマイペースに楽しむよう心がけている。

    しょうこさんイラストイメージ
  • たかふみさん(40代男性)の場合

    発症から4年後に非典型の視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica: NMO)と診断される。診断の2年後から車いすユーザーに。現在はテレワークもしつつフルタイム勤務中。

    たかふみさんイラストイメージ
  • あゆみさんの場合

    どのような痛み・しびれがありますか?

    私は痛みがあります。発作時は胸の辺りがビリビリと痛くて、呼吸する時も痛みを感じました。
    その後もやけどをしたあとのようなピリピリした痛みが続いていたのですが、再発をきっかけに痛みが強くなり、洋服が擦れる時や、腕に風が当たるだけでも痛みを感じます。

    痛み・しびれがひどくなるのはどんな時ですか?

    疲れがひどい時や、生理前・生理中、お天気が変わるタイミングなどに痛みがひどくなります。

    患者さんの痛み・しびれに対する正直な気持ち

    痛みのない生活は思い出せません。薬を飲んで症状が落ち着くことはあっても、痛みが消えてなくなることはないので、「あきらめの境地」というのが正直な気持ちです。実は、寝ている間に痛みをこらえて歯ぎしりをしていたようで、歯科医院で「歯が欠けている」と指摘され矯正治療を始めることになりました。

  • しょうこさんの場合

    どのような痛み・しびれがありますか?

    私は、しびれとけいれんがあります。ほぼ全身が常にしびれている状態です。また、有痛性強直性けいれんを何度も経験しています。けいれんが起きると手足がつっぱって、棒のようになってしまうんです。左側に起きることが多いのですが、右側も同時に起きると、倒れてしまったことも。以前は、1日に30回ほどけいれんが起きたこともありました。けいれんが起こる時はその前に気づくので、転倒してケガなどしないようにすぐに座ったりします。

    ※有痛性強直性(ゆうつうせいきょうちょくせい)けいれん : 脊髄障害の回復期に手や足が急にジーンとして突っ張る症状1)
    1) 難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/)(2024年11月現在)から引用

    痛み・しびれがひどくなるのはどんな時ですか?

    動きすぎて疲れてしまった時です。足を引きずってしまうこともあります。また、精神的にショックを受けたり、ストレスがかかるとしびれが強くなります。

    患者さんの痛み・しびれに対する正直な気持ち

    しびれのことを考えていると何も動けなくなります。だから、毎日しびれがあるのが日常、無視するしかないと思っています。今日はしびれがなぜ強いのかなど、その理由がわからないこともあり、自分で自分の体がよくわからない状態です。

  • たかふみさんの場合

    どのような痛み・しびれがありますか?

    私は痛みとしびれがありますが、困っているのはしびれと夜間の足のつっぱりです。常に膝から下にしびれがあり、足がつっぱって勝手に動いたりするので、夜寝る時は気になります。どうもしびれと関係しているようで、足のしびれが強い時は頻繁に足が動いてしまいます。

    痛み・しびれがひどくなるのはどんな時ですか?

    私はメンタル面の影響が大きくて、すごく緊張した時や落ち込んだ時にしびれやふるえがよく出ます。職場など知り合いの多い場所では大丈夫なのですが、知らない人が近くにいると足がつりやすくなります。また、夜間のしびれやつっぱりは、季節が関係しているようで、夏よりも冬によく出るように思います。

    患者さんの痛み・しびれに対する正直な気持ち

    私は、夜に足が勝手に動く症状があるので、夜なかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めてしまったりすることがあります。私もしびれの症状はあるのですが、そのことを先生には最近はあまり伝えられていません。

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痛み・しびれを我慢したり、あきらめたりしている人もいるのではないでしょうか。痛み・しびれに対しては、さまざまな治療薬が使われています。症状をゼロにすることは難しくても、少しでも軽くなれば日常生活でできることを増やせるかもしれません。NMOSDの痛み・しびれについて、先生にお話を聞きました。

患者さん

あゆみさん
しょうこさん
たかふみさん

医師

清水 優子 先生
東京女子医科大学 医療安全科・脳神経内科兼務 教授

王子 聡 先生
埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科 准教授

Q1なぜNMOSDでは痛み・しびれが起こるのでしょうか?

まず、脊髄についてお話しします。脊髄は脳から続く中枢神経であり、脊柱管とよばれる背骨の中の空間に守られるような形で存在しています(図左)。この脊髄は、首あたりの頸椎から腰あたりの第1腰椎の高さまで伸びています。そして、NMOSDの脊髄病変は、縦に長く(3椎体以上)、脊髄の中心にできる場合が多いことが特徴として知られています1)。縦に長い脊髄のどの位置に病変ができるかによって、痛み・しびれが生じる部位も異なります(図右)。 では、なぜ耐え難い痛みやしびれが起きるのかといいますと、少し難しいのですが、痛みを脳へ伝える信号を送る神経と、その痛みを和らげ抑えようとする信号を脳から送る神経が、ちょうど脳や脊髄のNMOSD病変と重なり合っているため、神経が常に発火しているような状態になり、耐え難い痛み・しびれを引き起こすと考えられます2)。 なお、疼痛が起こるメカニズムは完全には解明されていませんが、NMOSDの病態にも関与しているインターロイキン6(IL-6)というサイトカインが痛みにも関与しているという報告もあります3,4)

患者さんTALK:あゆみさんの「胸の痛み」は、胸髄辺りの病変が原因かも。
たかふみさんの「足のけいれん」は、胸髄から下辺りにできた病変と、同じ位置にある運動を制御する神経とが重なって、少しの刺激で足がけいれんしてしまうのではないかと考えられる。

Q2痛み・しびれに対する治療法を教えてください。

治療法には痛み・しびれの症状を和らげる治療薬を使用したり、痛みが強い場合は麻酔科と連携する場合もあります()。再発すると障害度が増して疼痛もひどくなることがあります。そのため、日頃の再発予防治療が重要です。炎症を抑制し、病状を安定させることで、今ある疼痛を悪化させないようにしましょう。

患者さんTALK:あゆみさんは再発後に痛みが強くなりました。
再発を予防することが悪化を防止するのに重要です。

Q3薬物療法以外にできることはありますか?

マッサージやストレッチなどが、有効なこともあります。また、気温が低い冬に症状がひどくなる患者さんが多いようですので、保温も1つの方法かと思います。ただ、NMOSDでは体温が上昇すると神経症状が一時的に悪化する「ウートフ現象」が出ることがあるため、温めすぎないよう注意が必要です。他に、サポーターの使用でも症状が改善されることがあります。

Q4痛み・しびれの症状が、再発の徴候になることはありますか?

いつもよりも症状が強くなると、再発したのではないかと心配になりますね。結論からいえば、痛みやしびれの症状が再発の徴候になることはあり得ます。いつもと違う場所に痛み・しびれがある場合は可能性が高いといえます。ただ、体温の変動で症状が悪化する「ウートフ現象」や過労・ストレスなどで症状が出る場合もありますので、再発かどうかを判別するには、MRI検査で異常所見があるかどうかを客観的に評価する必要があります。NMOSDの再発とは、「発熱や感染症がない時期に、神経症状が24時間以上持続してみられるとき」と定義されています7)再発を疑った時は早めに病院に連絡して、主治医に指示を仰ぐことが望ましいと思います。

1) 日本神経学会監修.「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会.
多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023. 医学書院. 2023, p8.
2) Bradl M, et al.: Nat Rev Neurol. 2014; 10(9): 529-536.
3) Zhou YQ, et al.: J Neuroinflammation. 2016; 13(1): 141.
4) Dominguez E, et al.: J Neurosci. 2010; 30(16): 5754-5766.
5) 日本神経学会監修.「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会.
多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023.医学書院.2023,p247.
6) 一般社団法人日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ編.
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版. 真興交易株式会社医書出版部. 2016, p48-50.
7) 難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/)(2024年11月現在)から引用、改変

こんな工夫や考え方もある Tips from our CROSSTALK 明日への役立つヒント こんな工夫や考え方もある Tips from our CROSSTALK 明日への役立つヒント

患者さんと医師の座談会から聞こえてきた、痛み・しびれの症状との付き合い方について、
また患者さんと医師から読者の皆様へのメッセージをご紹介します。

Tips from Patients

何もしない、他で気をそらすなど、
症状を意識しすぎないようにする

痛み・しびれの症状を意識しすぎると、逆に動けなくなることも。そんな時は、好きな映画やドラマを見て夢中になるなど、他のことで気をそらすようする。

痛み・しびれは「あって当然」と思って割り切る。

何もしない、他で気をそらすなど、症状を意識しすぎないようにするのイメージ画像
Tips from Patients

和らげる工夫は人それぞれ。
できない時は無理してやらなくてもいい

しびれの緩和のために、リハビリの先生に教えてもらった足裏を伸ばすストレッチを1日1分、毎日実践。しびれがひどい時は、長めにやる。

ヨガやピラティスも痛い時は全くできない。だから無理にやろうとせず休むのが一番。

Tips from Doctors

うまく伝えられない時は、
資材を活用してみるのも1つの方法

自分の症状を上手に伝えられないと思ったら、文字にしてみるとよい。書き出すことで自分の症状を客観的に捉えられるようになり、症状を具体的に伝える助けになる。例えば、医師とのコミュニケーションを目的とした冊子もあるので、うまく活用してみては。

うまく伝えられない時は、資材を活用してみるのも1つの方法のイメージ画像
Tips from Patients

わかりにくい痛み・しびれを
周りや先生に伝える時…こんな表現もある

「呼吸ができないぐらいの猛烈な痛み」「風が当たっても痛い」「締め付けられるような痛み」「正座をしすぎた時のようなしびれ」のようにたとえを使う。

「最大の痛みを10とすると、今は7ぐらい」など、痛みの強さは数字で表現。

「ピリピリ」「ビリビリ」「ジンジン」などのオノマトペ(擬態語)を使う。

わかりにくい痛み・痺れを周りや先生に伝える時…こんな表現もあるのイメージ画像
Tips from Doctors

痛み・しびれも医師に伝えて大丈夫。
毎日のことだとあきらめないで

痛み・しびれについても、いつでも医師に相談して大丈夫。もし、いつ相談したらよいか迷った場合、相談するタイミングは、例えば「痛みやしびれが日常生活を送る上で邪魔になっていると感じた時」など。

生活の中で、どういう時につらいのか、どの程度の支障が出ているのか、なるべく具体的に話してみよう。

症状をゼロにはできなくても、今よりも和らげることができれば、日常生活はもっと楽になるはず。医師も話を聞いて初めて気づくことがたくさんあるので、ぜひ生の声を医師に届けよう。

  • あゆみさんのイラスト

    from
    あゆみさん

    痛み・しびれの症状は外からはわからないのですが、私たちにとっては一番身近にある症状です。薬を飲んでもなかなか改善せず、あきらめてしまいがちですが、痛み・しびれが少しでも良くなれば、私たちのQOLは本当に高まると思います。ですから、やはり自分がどう困っているのかを主治医にきちんと話して、自分に合った治療や予防法・ケア方法を探していきましょう。

  • しょうこさんのイラスト

    from
    しょうこさん

    痛みやしびれを完全になくすことは難しいと思いますが、それでも私の場合は、時間とともに少しずつですが良くはなってきました。ですから、あまり思い詰めないことが大切です。また、どういう時に症状が強くなるのかわかっていれば自分なりに工夫もできるので、記録をつけておくとよいと思います。

  • たかふみさんのイラスト

    from
    たかふみさん

    思い返してみると、これまで主治医と痛み・しびれについてあまり話し合っていなかったように思います。外来の限られた時間の中では、痛み・しびれのことまでは相談しづらいと思っていたのですが、今回の座談会を通して主治医との情報共有の大切さを改めて感じました。自分が困っていることは、遠慮せず伝えてみようと思いました。

  • 清水先生のイラスト

    from
    清水先生

    薬を飲んでも症状が良くならないと「主治医に言っても仕方がない」と諦めてしまうことがあると思います。そうすると、新薬や新しい情報など良いニュースを取り損ねてしまうかもしれません。困っていることがあったらどんなことでも、遠慮なく主治医に伝えていただきたいと思います。

  • 王子先生のイラスト

    from
    王子先生

    痛み・しびれの薬は、使い始めてから効果が現れるまで時間がかかることもあります。また、副作用が強くて使えない場合もあるかもしれません。しかし、治療の選択肢は複数あります。患者さんと私たち医療者側が情報を共有して、相談しながら治療を進めていくことが大切だと思います。今ある痛みやしびれが少しでも軽くなるよう、一緒に頑張っていきましょう。