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最終更新日2024/03/25

Vol.10患者さんと医療者の新たなコミュニケーション「SDM」について

埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科 客員教授
日本赤十字社 八戸赤十字病院 MS/NMOSD 専門外来担当
医療法人北祐会 北海道脳神経内科病院 顧問
市立根室病院 内科・脳神経内科 医長
深浦彦彰 先生

深浦彦彰 先生

第2回
「医療者と一緒に治療方針を見つけていこう」

SDM の重要性:患者さんと医療者が一緒に意思決定をする

現時点ではNMOSDには根本的な治療法はありませんが、適切な治療により再発を防ぐことができれば、良好な長期予後が期待できるといわれています1)。再発予防薬にはいくつか種類があり、その中から選ぶことになりますが、NMOSDの病状は千差万別で2)、同じ治療を行っても効果や副作用の出方は人それぞれです。効果が高くて副作用は少ない、服用方法も簡便といった「絶対にこれ!」という治療法が明確でないだけに、どれを選べば良いのかわからなくなってしまうこともあるでしょう。

このような状況でも納得のいく選択をするために、近年注目されているのが「シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making:SDM)」です。従来、医療現場で行われる意思決定は、医療者がその患者さんにとって最も良いと考える治療方針を提示し、患者さんがそれを受け入れるパターンが主流でした3)。あるいは、医療者が必要な医療情報を患者さんに提供し、それをもとに患者さんが自分で治療を選択する方法もあります3)。これらに対してSDMは、医療者が決めるのでも患者さんが決めるのでもなく、患者さんと医療者が一緒に意思決定を行うことが特徴です3)

なかには「医療情報さえ提供してもらえば、自分で選択できる」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、専門的な医療情報を患者さんやご家族が正しく理解するのは難しく、医療者側からの一方的な情報提供になってしまう恐れもあります。また、性別・年齢・職業などが同じであっても、治療選択のポイントは人によって異なります。治療効果を最優先にする方もいらっしゃれば、安全性を重視する方もいらっしゃるでしょう。妊娠を希望するかどうかによっても選択肢は変わります。各治療にはメリットとデメリットがあり、選択が難しい場合にこそ、医療者から提供される医療情報だけでなく、患者さん自身の人生観や価値観、ライフスタイルなどの情報も含めて検討することが大切です。

医療者と良好なコミュニケーションを保つには?

SDMの実践には、医療者側が持つ医療情報と、患者さん側が持つ価値観や治療への希望といった情報を、お互いに共有する必要があります。医療者は、意思決定に必要な医療情報を、時間をかけて、患者さんが理解できるまで説明してくれます。わからないこと、不安なことがあれば、主治医から納得のいくまで説明を受けましょう。

一方で、医療者はこれまでの病気の経過や既往歴、家族歴といった、治療に必要な情報は把握していても、患者さんの価値観や治療に対する気持ちまではわかっていないこともあります。こうした情報は患者さんから医療者に伝える必要があり、そのためにも普段から医療者とコミュニケーションを取っておくことが大切です。

そうは言っても、主治医の忙しそうな様子をみると、聞きたかった質問を飲み込んでしまうこともあると思います。あるいは、医師の前では緊張して言葉が出てこない、言いたいことをうまく伝えられないといったこともあるかもしれません。その場合は、伝えておくべきこと、聞きたいことをメモにするなどして事前に整理しておくと、短い時間で手際よく質問できます。聞きたいことがたくさんある場合は、優先順位をつけて順位が低い質問は次回に回すなど、工夫しましょう。

第2回
「医療者と一緒に治療方針を見つけていこう」のまとめ
  • SDMとは、患者さんと医療者がお互いの情報を共有し、一緒に治療を決めていく意思決定プロセスのこと
  • SDMの実践には、患者さんが自分の価値観や治療への希望を医療者に伝える必要がある
  • より良い意思決定のために、普段から医療者とコミュニケーションを取り、何でも話せる関係性を作っておくことが大切
1)
深澤俊行編. やさしい多発性硬化症の自己管理改訂版- よりよい毎日を過ごすためのQ&A-.株式会社医薬ジャーナル社. 2016. p159.
2)
特定非営利活動法人MS キャビン.視神経脊髄炎完全ブック第1 版.2018, p19.
3)
健康を決める力. ホームページ.コミュニケーションと意思決定. 誰がどのように意思決定するのか
https://www.healthliteracy.jp/comm/post_8.html(閲覧日:2024/02/05)