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提供:中外製薬株式会社
最終更新日2025/10/09
NMOSD未来会議~長期予後を目指すために①~
【専門医インタビュー】NMOSD再発予防治療の現状と今後の期待
2019年以降、生物学的製剤の登場により治療選択肢が増え、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD:Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders)の再発予防治療は大きく変わりました。
NMOSDは、ずっと付き合っていく病気です。これからは再発ゼロを目指しつつ、長期的な目線でQOL(生活の質)を維持・向上していくことが治療の目標となります。
生物学的製剤について、聞いたことはあるけれど、よくわからず使用には不安がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
変化してきているNMOSDの再発予防治療について、NPO法人日本視神経脊髄炎患者会で代表を務めるソプラノ歌手の坂井田真実子さんが、NMOSDの専門医である池口亮太郎先生と金子淳太郎先生に話を聞きました。
※生物学的製剤はAQP4抗体が陽性でないと使用できません。
ベルサール西新宿 2025年7月9日(水)19:00~21:00
〈聞き手〉
坂井田真実子さん NPO法人日本視神経脊髄炎患者会理事長、ソプラノ歌手
〈お話を伺った医師〉
池口亮太郎先生 東京女子医科大学 脳神経内科 講師
金子淳太郎先生 北里大学医学部脳神経内科学 診療講師
「再発」の定義がない理由
坂井田さん 再発予防治療のお話の前に、そもそも「再発」の定義が明確ではないことが患者の不安につながっています。なぜ定義されないのですか。
池口先生 確かに、「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」1)にも、医学雑誌の論文2,3)にも再発の定義は記載されていません。ただ、明確にすると、その定義を満たさなければ治療に踏み切れなくなるデメリットが生じる可能性もあると思います。そのため、診断に幅を持たせることで治療選択肢を広げるという目的もあり、定義がされていないのかもしれません。一方で、脳神経内科医の中でも再発の判定については差があるので、これは課題だと感じています。
金子先生 再発の定義がないことは医師側も問題だと思っています。新たな症状が出現した際にMRI検査で病変が確認できれば再発だと判断します。しかし、MRIで新たな病変が確認できない場合でも、病変が小さい、撮影部位がずれているなどの理由でうまく描出できていない可能性もあり、2、3日新たな症状が続くようならば再発かもしれないと考えるようにしています。
MRI検査で新たな病変が見つけられない場合でも再発の可能性が否定できないことが、再発を定義できない理由の1つかもしれません。再発の予想ができないことや病勢を反映するマーカーがないことも、再発の定義付けを難しくしていると思います。
坂井田さん 私たち患者は、小さな変化でも先生方に伝えるべきですね。
金子先生 気になることがあれば、ためらわずに伝えてください。患者さんの訴えが炎症の兆候となっている可能性もあります。
池口先生 医師に直接症状を伝えにくい場合は、付き添いの方に代弁してもらうのも1つの方法です。
生物学的製剤が再発予防治療に加わったことによる変化
坂井田さん 再発予防治療で使用される生物学的製剤はどのような薬なのですか。
金子先生 解明された病気のメカニズムに対し、より効率的に作用するように設計された薬で、すでに様々な病気の治療薬として使われています。たとえば関節リウマチ治療で使われる生物学的製剤は20年以上使われています。
NMOSDの再発予防治療薬としては5剤の薬剤が使えるようになり、作用機序や投与方法、投与頻度はそれぞれの薬剤で異なります。
各薬剤は治験で再発予防効果が報告されており、NMOSDの再発予防治療は以前よりも充実してきました。
既存治療薬と比べて感染症になる方が多くなった報告は現在のところありませんが、免疫に作用するため注意は必要です。
坂井田さん 生物学的製剤は現在、どのように使われているのですか。
金子先生 再発予防治療として早期から使う傾向が強まりました。単剤でも効果が確認されており1)、経口副腎皮質ステロイド薬(以下、ステロイド薬)を使わずに治療することもあります。医師側も生物学的製剤の使い方に慣れてきたように思います。
坂井田さん ただ、生物学的製剤はお金の問題で躊躇する人も多いと聞きます。
金子先生 確かに高額で、ガイドラインにも国民医療費増大の観点を踏まえて使用を考慮するよう記載があります1)。こうした背景から使用を遠慮する患者さんもいるかもしれませんが、NMOSDの再発は重篤なことが多く、障害が悪化する可能性があるため、主治医と相談しながら治療方針を決めていただければと思います。
坂井田さん 生物学的製剤を使用する上での注意点はありますか?
池口先生 感染症は患者さん自身にも意識していただきたいです。それぞれの製剤で特有の注意点があり、使っている患者さんには知っておいていただく必要があります。
ただし、こういった薬剤の特徴を家の近くの内科クリニックの先生がご存知かというと、必ずしもそうではないと思います。
熱が出た時にどうすればいいかなど、主治医の先生とあらかじめ相談しておくのが良いですね。
ステロイド薬の役割と注意点
坂井田さん 副腎皮質ステロイド薬(以下、ステロイド薬)も再発予防治療で使用されていますよね。
池口先生 ステロイド薬は、多くの自己免疫疾患・炎症性疾患に長年使われてきた薬です。NMOSDにおいて無治療と比べて再発頻度を抑える効果がありますが、10年間再発しなかった方は46.5%だったという報告でした4)。
また、長期的にステロイド薬を使用すると、感染症や骨粗しょう症、糖尿病や高血圧、胃潰瘍(かいよう)、白内障などの副作用が現れることがあります1,4)。顔がむくんだり、体重が増えたりということもあるかと思います。
再発予防治療でステロイド薬を使用する際は、必要最小限にとどめることが大切です1)。
「二度と再発させないこと」「ステロイド薬の減量・中止を目指すこと」がガイドラインにも明記され、現実味のある目標となっています1)。生物学的製剤の登場で、再発予防治療の戦略は大きく変わりました。
ステロイド薬を減量することで、「体重が減った」「顔のむくみが改善した」など、患者さんの悩み軽減にも繋がっています。
NMOSDの今後の課題
坂井田さん NMOSD治療の課題は何だとお考えですか。
池口先生 痛みやしびれ感などの後遺症の治療が課題だと感じています。痛みが強くて一般的な鎮痛剤が効かないこともあります。そのような痛みに対する生物学的製剤の影響、といったデータが蓄積され、患者さんに還元できるとよいですね。
※痛みやしびれとの付き合い方については、「CROSS TALK~患者さんと医師による座談会~」もご覧ください。
金子先生 AQP4抗体がCBA法で測定できないこと、疾患活動性を反映するマーカーがないことが課題だと感じています。
また、軽症で診断されて、これまで再発を経験したことがなく症状をコントロールできている患者さんの中には、病気の意識が薄くなり治療をやめてしまうケースが出てくるのではないかという懸念もあります。
生物学的製剤は毎日使う薬剤ではないので、服薬を忘れないような工夫ができるとよいのではないでしょうか。スマートフォンのLINEアプリから利用ができる「視神経脊髄炎on“LINE”」は、服薬や受診のタイミングをお知らせしてくれるので、便利だと思います。
1) 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023. 東京, 医学書院, 2023.
2) Wingerchuk DM, et al.: N Engl J Med. 2022;387(7):631-639.
3) Ma X, et al.: Mult Scler Relat Disord. 2020;46:102522.
4) Takai Y, et al.: Mult Scler Relat Disord. 2021;49:102750.
