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最終更新日2023/04/05

Vol.7これからのことを考える
— 妊娠・出産のこと

監修:
東京女子医科大学 医療安全科(脳神経内科兼務) 教授 清水優子 先生
清水優子 先生

私は東京女子医科大学の脳神経内科医で、神経免疫疾患[視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、多発性硬化症(MS)、重症筋無力症(MG)など]について研究しています。当院には全国からNMOSD、MSの方が受診されています。


東京女子医科大学卒業
日本神経学会認定神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本頭痛学会専門医

「病気をうまくコントロールすれば妊娠・出産に臨めます」

NMOSD患者さんの中には妊娠・出産について考えている方もいらっしゃるでしょう。また、病気の遺伝や服用している薬の影響について気になる方もいらっしゃるかもしれません。

まず、NMOSDは親から子に遺伝する病気ではないといわれています。女性あるいは男性の方がNMOSDを発症しても、NMOSDという病気自体が不妊の原因になるという報告もありません1)

次に、服用している再発予防治療の薬についてですが、以前は妊婦さんに投与できない薬を使用しているからと、妊娠をあきらめてしまうケースもみられました。しかし、最近ではそういった薬の妊婦さんに対する使用制限の見直しが行われて2)、妊娠中に使える薬の選択肢が増えています。そのため、主治医と相談されたうえでご自身に合った再発予防治療を続けながら、妊娠・出産に臨むことができます。

女性のNMOSD患者さんでこれから妊娠・出産を検討したいと考えている方、出産を控えている方は、ご自分の病気のことをしっかり理解して、再発予防治療を自己判断で中断することなく、病気を上手にコントロールしていきましょう。

※ 男性のNMOSD患者さんの場合、再発予防治療薬が妊娠に与える影響は非常に少ないと考えられています1)が、脊髄病変がある場合は性機能障害が出てくる可能性があります。お困りのことがあれば、主治医に相談してみましょう。

妊娠前、妊娠中、出産後
知っておいてほしい大切なこと
妊娠前再発予防治療をしっかり行い、
再発しない状態をつくっておくことが大切です

妊娠・出産を考えるにあたって知っておいていただきたいのが、女性のNMOSD患者さんは妊娠・出産によって再発が起きやすくなるということです3)。妊娠中や出産後に再発が起こるのを防ぐには、妊娠前に再発を起こさない安定した状態を一定期間(基本的には1年間など)保つ必要があります。そのためには妊娠前にしっかり治療を行っておくことが重要です。再発が起こりやすい不安定な状態で妊娠した場合、お母さんの胎盤と赤ちゃんをつなぐ大切な部分に炎症が起こり赤ちゃんに十分な栄養が届かず流産のリスクになったり4)、妊娠高血圧症候群のリスクも高くなるということがあります3)

妊娠中体調の変化に気を配り、少しでも何かおかしいと感じたら
すぐに主治医に連絡してください

妊娠中の再発予防治療については、自己判断で治療を中止せず、主治医と相談しながら治療を続けてください。ただし、免疫抑制薬の中には、妊娠前に中止するものもあります。治療をされている方は、あらかじめその治療が妊娠中続けてよいものなのか相談したほうがよいでしょう。気になる体調の変化などがあれば、ほんのささいなことでも主治医に相談してください。「この症状、再発なのかな?」と思っても、ご自分で判断することは難しい場合もあると思います。安心を得るためと思って、主治医に連絡して再発しているかどうかを判断してもらうようにしましょう。MRI検査も妊娠13週以降は受けることができます5)

妊娠中に万が一再発した場合は、妊娠週数に応じた急性期治療が患者さんの同意のもと行われます5)。妊娠中の急性期治療はおなかの赤ちゃんへの影響を十分考慮して行いますが、さまざまなリスクを伴います。事前に主治医と十分話し合っておくことが大切です。

出産後再発する可能性が高くなります。出産する病院の選び方、
産後のサポート体制、授乳の方針について考えておきましょう

出産後は再発が起こる可能性が特に高くなります3)。出産後の再発に備えて、産院は「産科の先生と脳神経内科の主治医が連絡を取り合える」ところを選び、出産後に再発が疑われる症状が現れたら早急に対応できるようにしておくと安心でしょう。

また、赤ちゃんを産んですぐに再発して急性期治療のため入院をしなければならなかったり、出産後の育児ストレスが原因で再発したりする方もいらっしゃいます。産後のサポート体制は整えておきましょう。特に、パートナーの方は“サポートする立場”ではなく、妊娠から育児までを担う“チームの一員である”と自覚し、主体的に向き合っていただきたいと思います。

授乳は主治医と相談しながら行っていただけますが、産後は生活サイクルも乱れますし、知らない間に疲れやストレスも溜まります。母乳育児へのがんばりがストレスとなってしまう場合もあるかもしれません。そういった場合は授乳は人工乳にしてみるなど、できるだけお母さんはNMOSDの治療に専念する方向も一案だと思います。

1)
特定非営利活動法人MSキャビン. 視神経脊髄炎完全ブック第1版. 2018, p 123, 129.
2)
厚生労働省. 平成30年度第3回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料1-1~1-4 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000213222.html(閲覧日:2023/02/14)
3)
日本神経学会. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン 2017. 医学書院. 2017, p 291-292.
4)
Saadoun S, et al: J Immunol 2013; 191(6): 2999-3005.
5)
日本神経学会. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン 2017. 医学書院. 2017, p 294-296.
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